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車のクラクションで我に帰る。ウイスキーのボトルが地面に落ちて、こぼれたのがわかった。何故か身体が動かない。びくともしない。車道に立ちすくむ。次の瞬間自分の手を誰かが引っ張り、歩道に連れ戻された。
「あぶねぇな!!!何やってんだよ。ひかれるぞ!」
その少年はつかんだ加奈の腕から手を離した。
「イタッ・・」
加奈が顔をしかめる。
ちょうど直りかけていた水ぶくれが、つかまれた事によってびっちょりとつぶれていた。少年は自分の手のひらを見て
「うえぇぇ!なんだよ。お前それ」
作業服のズボンで手のひらを拭きながら凄い目で加奈の全身を見た。
「っつーか、お前。飲んでるのか?」
微妙な沈黙に包まれる。
「気をつけろよ」
そういって少年は加奈に背を向けて歩き出した。
あの時助けられた時。何も考えられなかった。頭の中がからっぽだった。けどね、もしあの瞬間に今戻れるなら、あなたに大声で伝えたい。「助けてくれてありがとう」言えなくてごめんね。
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