天国と地獄

はじめに

10歳の加奈はもう勉強を強いられる事はなかった。諦められてしまったのだ。　怒鳴られるよりも、殴られるよりも、もっとそれが辛いだなんて思っても見なかった。食卓には、加奈の分の食事はもうなかった。

「お母さん？おなかすいた」
その一言を言う事にどれだけ勇気が必要だっただろう。
「家族の団欒っていいもんだよなぁ」
ビールを飲みながらハンバーグを食べる父親の大きな声。母親がため息をつきながら加奈に言う。
「やることをしっかりできない子は、ご飯もお菓子も食べれません！」
朝も、夜も、加奈には家族と別の場所で、何もぬってない食パンと、胡瓜が1本渡された。夜中に冷蔵庫のものをこっそり食べると、次の日は体中が痛くて動けなくなるほど殴られた。　だから胡瓜を引き出しの中に隠して、夜中に少量のマヨネーズや味噌をつけてトイレでこっそり食べた。　長い休みで給食がない日は、殴られるのを覚悟で3日に1度冷蔵庫のものをおなかいっぱい食べた。