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「え?」
「行きなよ。ね。」
会長も言ってくれた。
俺は走った。怖かったから。胸騒ぎがしたから。
鬼の住む街の地図・開かずの葛籠・龍の首…
“揃えば終いが来る?なら揃えたらダメだ。これはきっと…”
「現実だ。」
吸い込まれるのは、現実に起こり得る事なんだ…!
「周五郎じいちゃん!」
「誠悦君。塔子ちゃんの懐中時計かい?」
「―よく解りましたね。」
「ふ。解るよ。これは全一郎君と塔子ちゃんの約束の品だ。彼が話してくれた…。」
懐かしそうな顔をしながら、旅籠の店主“和田周五郎”は話す。九十一歳の現役だ。俺のじいちゃんとは、年の差が五歳もあるが。尋常小学校からの友人である。因みに全一郎とは…祖父の名である。
「あいつは、塔子ちゃんには伝えてないだろうな。知れば、気になってしまうから…。」
「周五郎じいちゃん?」
「“開けるな”と伝えて欲しいんだ。でなければ、“吸われる”と。私も、吸われたクチだ。」
「―え?」
「鬼の住む街の地図を買った少年が居る。」
“対馬だ!”
身体が震える。
「恐ろしき何かが起こる予兆じゃ。この約七十年、誰も気付かなかったのに!」
両手に拳を握りしめ、絞り出すように声を出す。「よいな。この世の終いが来ては、いかんのだ。あの二人を救う者など…。」
また走った。怖くて走った。息が上がる。
“じいちゃん、じいちゃん、じいちゃん!”
帰宅し、真っ直ぐ姉の部屋へ向かう。心臓が目前で鳴っているように、響いて聴こえる。
「姉さん!懐中時計だけど!」
「良かった!」
奪うように取る姉。俺の声なんて耳に届いていない。
「周五郎じいちゃんが、開けちゃダメだって。」
「え?」
「あ!」
既に、姉は開けていた。
そして、正に一瞬。
周五郎じいちゃんの言った通り“吸われた”のだ。
“懐中時計”に…
「姉さん!」
「誠悦?」
親父が来る。
こんな時に、聞きたくも無い声が耳に入り嫌になる。
「お前、女の子泊めたのか?二階の一室が女の子の部屋になってて…」
「何の冗談?姉さんの部屋だろ?」
「お前に姉なんて居ないだろう?」
「―!」
「誠悦!?」
俺は懐中時計を持って、旅籠へ走った。
“怖い。恐い。コワイ。こわい”
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