第一章 我が街へ

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「え?」 「行きなよ。ね。」 会長も言ってくれた。 俺は走った。怖かったから。胸騒ぎがしたから。 鬼の住む街の地図・開かずの葛籠・龍の首… “揃えば終いが来る?なら揃えたらダメだ。これはきっと…” 「現実だ。」 吸い込まれるのは、現実に起こり得る事なんだ…! 「周五郎じいちゃん!」 「誠悦君。塔子ちゃんの懐中時計かい?」 「―よく解りましたね。」 「ふ。解るよ。これは全一郎君と塔子ちゃんの約束の品だ。彼が話してくれた…。」 懐かしそうな顔をしながら、旅籠の店主“和田周五郎”は話す。九十一歳の現役だ。俺のじいちゃんとは、年の差が五歳もあるが。尋常小学校からの友人である。因みに全一郎とは…祖父の名である。 「あいつは、塔子ちゃんには伝えてないだろうな。知れば、気になってしまうから…。」 「周五郎じいちゃん?」 「“開けるな”と伝えて欲しいんだ。でなければ、“吸われる”と。私も、吸われたクチだ。」 「―え?」 「鬼の住む街の地図を買った少年が居る。」 “対馬だ!” 身体が震える。 「恐ろしき何かが起こる予兆じゃ。この約七十年、誰も気付かなかったのに!」 両手に拳を握りしめ、絞り出すように声を出す。「よいな。この世の終いが来ては、いかんのだ。あの二人を救う者など…。」 また走った。怖くて走った。息が上がる。 “じいちゃん、じいちゃん、じいちゃん!” 帰宅し、真っ直ぐ姉の部屋へ向かう。心臓が目前で鳴っているように、響いて聴こえる。 「姉さん!懐中時計だけど!」 「良かった!」 奪うように取る姉。俺の声なんて耳に届いていない。 「周五郎じいちゃんが、開けちゃダメだって。」 「え?」 「あ!」 既に、姉は開けていた。 そして、正に一瞬。 周五郎じいちゃんの言った通り“吸われた”のだ。 “懐中時計”に… 「姉さん!」 「誠悦?」 親父が来る。 こんな時に、聞きたくも無い声が耳に入り嫌になる。 「お前、女の子泊めたのか?二階の一室が女の子の部屋になってて…」 「何の冗談?姉さんの部屋だろ?」 「お前に姉なんて居ないだろう?」 「―!」 「誠悦!?」 俺は懐中時計を持って、旅籠へ走った。 “怖い。恐い。コワイ。こわい”
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