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バン!!
「周五郎じいちゃん!」
「開けてしまったんだね。」
「間に合わなかったんだ。それから父の記憶から、姉さんが消えていたんだ。」
「そうだよ。一日に一人づつ彼女を忘れるだろう。早く助け出して、ここへ戻らないと。彼女は抹消される。」
「いるのに!」
「だから、君が行くんだ。誠悦君、君は全一郎君に似ている。きっと、君ならあの二人も同時に助けられるだろう。」
「―何の話?意味が解らない。二人?」
「十七歳の少年は、龍に誘われ鬼と会う。その後どうするかは少年次第…」
「意味解んないよ。じいちゃん?姉さんをどうやって助けたらいい?」
周五郎じいちゃんは言った。
「葛籠が全てを教えてくれる。次の満月の晩に、地図を開いて待つがいい。必ず導かれる。」
“地図…鬼の住む街!”
「君の持つ葛籠には、“龍の首”が描かれた灯籠が入っているんだ。それは、全一郎君が十七の時に鬼から受け取った物。決して開けるなと言われた物。他人の手に渡してはならんぞ。開けては終いが来る。開けぬまま、返すのだ。そして…塔子ちゃんを助けるのだ。解るね?」
俺は、頷く。
意志は固まった。
「俺は、姉さんを助けに行く。それだけです。鬼や龍の話なんて正直、知ったこっちゃない。」
「…必ず巻き込まれるよ。葛籠がある限り。」
「開かなきゃいい。幸い鍵も無いし、頑丈だ。」
「行っておいで。」
「行ってきます。」
今までは、何もかもがどうでもよくて。足元もしっかりしていなかった。今は…。
やっと、此処に立っているぞという気持ちになれる。人間。心次第なんだな。
「全一郎君…彼に道標となる光を。」
まるで、これからの俺の未来を表すかのように。空は瞬く間に曇って行った…。
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