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三國が聞く。
黙って、俺も聞いてた。
「確か…“記憶を失った若者がやってくるだろう。若者が覚えているのは、自らの名と龍の事のみ”と。」
「龍?葛籠!?」
俺は興奮気味に聞く。
「葛籠…かは知りませんけど。」
驚いて後退する千左を、おかあさんと呼ばれる女将さん?は庇う。
「まぁ、この子は何も知りませんから。堪忍しておくれ。―続きは私から言いましょ。」
着物をパンッとはたき、座り直した彼女は話してくれた。
「今から四十年程前の事です。京都に有名な呪術師がおりました。その者は、海神様…つまり龍神様と仲が宜しかったのでございます。」
「龍神…様?」
「はい。或る日、呪術師が住む村の長の娘が。龍神様に恋をしたのでございます。」
夢物語を聞かされているようだ。本気で話しているのか。
「足繁く通い始め、龍神様も娘に恋心を抱くようになり。遂には愛し合うようになりました。しかし、長は許さなかったのです。龍神様を射殺そうと弓を構えました。それに気付いた娘は庇って死んだのです。」
言葉が出ない。本当の事か?
「哀しみのあまり、狂ったように暴れ出した龍神様を封じる事を決めた村人は…呪術師の力を借りて封じたと言われています。その際に龍神様が“お前は私を封じると言うか。鬼め!”と叫んだそうです。それから…龍と鬼の闘いだったと言われています。その呪術師は…今もその村に生きています。」
「この街ですね?」
対馬が問う。
「だから、此処が。“鬼の住む街”だよ。そして、封じた葛籠は此処にある。」
対馬は断言をする。
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