第一章 我が街へ

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祖父の部屋は、一階東側の奥にある。俺と姉は二階だ。 築四十年以上の我が家は、今にも踏み壊しそうな古い廊下と、七つもの畳部屋がある。 姉は、好きらしいが…俺は大嫌いだ。 祖父の部屋が近付くと、沢山の騒ぎ声が耳に入ってくる。 無言で、襖を開けた。 「誠悦?やっと来たか。」 大嫌いな親父の声に、眉間に皺を寄せた。 四畳半の狭い部屋に、目の色を変えた大人達が、我先にと物色している姿が目に入る。 「お前、何にする?早く決めないと無くなるぞ。 あ、このコート貰っていいか?」 「好きにしたら?」 吐き気さえ覚える。 廊下に立ったまま、やる気無く視線を移動させた。 「―あ。親父、畳浮いてる。」 「え?」 押し入れの近くの畳が、少しだけ浮いている事が気になったんだ。妙な違和感を感じて… 「気にし過ぎだろぅ?」 と言いながら、親父が戻そうとするが戻らない。 周りも気になりだして、声を掛け始める。 「一回外してしまえば?」 「いいね。やってみなよ。」 親父は面倒くさそうに、畳を外した。くだらないと思いながら、黙って見ていた俺の目に。“あれ”が飛び込んで来た。
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