第一章 我が街へ

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何重にも布を巻いて、誰の目にも触れさせないように隠していた“あれ”だ。 「あ。鬼から貰った葛籠だな。此処に隠していたのか。」 「鬼?」 「あぁ。昔、よく『鬼から貰った。決して開けるな。』て言われた葛籠だな。しかし。そう言われたら、開けたくなるだろ?」 ニヤニヤしながら、親父は言う。呆れて、俺は返事をする。 「開けたんだ。」 「まさか!触ろうとしたら見付かってな?とんと見えなくなってしまったんだ。はて、売ったか?捨てたか?隠したか…と思ってはいたが。まさか、畳の下とはなぁ。鬼から貰った話なんか信じてなかったが、売ったらどれくらいするんだろうな?」 何処まで腐れ外道なのか。全くもって、やはり。嫌いな人種である。 「でも。本気で忘れてた。」 俺は、呟いた。 親父に内緒で、俺に見せてくれたんだな。場所は覚えてないけど。全く興味を感じなかった事を詫びるよ。 散々バカにしていたのに、俺はこの葛籠に惹かれていた。人間なんて勝手な生き物だ。 「俺。これ貰う。いいよな!」 と、半ば強引に親父に言い放つと。誰も返事しないのに、引っ張ろうと部屋へ足を踏み入れた。 「売るのか?」 「まさか。」 「変わった奴だな。」 親父に言われたくは無い。 そう思った。 そして、手を葛籠へ伸ばした瞬間だった。 “声”が聞こえたんだ。 『我を導け。』 思わず、手を引っ込める。 怪訝そうに、俺を見る親父。 「誠悦?欲しくないのか?」 「―欲しい。けど…」 俺を見て、何かを感じ取った親父は溜め息をついた。 「怖かったら止めたらいい。他の誰かが引き上げるまで、また眠るだけだ。」 意識してか、せずか。 親父は、まるで葛籠が生きているかの如く話す。 「いい。引き上げる。」 俺も、決心して話す。 ほんの数十分前には、バカにしていたのに。こんなに、何故夢中になるんだ? そう、感じていた。 葛籠は、そんなに大きくは無い。中は灯籠だと、教えて貰ったはず。祖父だって、軽々と担いでいた記憶がある。 親父が引き上げる。 それは、俺の前に姿を現した。 「誠悦。開いて見せてくれ。」 興奮状態の俺は、掛けられた親父の声で現実に戻る。 周りも、興味深々な顔で見ていた。 「これ、部屋に持って帰るから。」 そう言うと、親父は怒った。 「引き上げたのは、俺だ。」 ああ。欲望の鬼と化する人間共よ。なんて醜悪。
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