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俺は、校門から校舎を見上げていた。空の青さが切なく感じる。
「あれ?小川ー!」
俺を呼ぶ声がして振り返ると、我が校一駿足の男。芹澤幹(せりざわつよし)が居た。
サッカー部所属。天然キャラ?朝練中かな?
「早いなぁ。何かあったの?」
「いや、別に…なんとなく。」
そう答えると足早に校舎へ入った。深く考えてはいないと思うが、何だか見透かされてる気がして嫌になったんだ。
「芹澤?どうした?」
「あ、鴎丞。今、小川が…。」
「三國と呼べって言ってるだろうがよ!」
三國鴎丞(みくにおうすけ)文学好きな彼の祖父が名付けたらしい。だけど、彼はこの名が大嫌いみたいだ。
そして、彼は…
「あ。三國も早いねぇ。」
「も?」
言い直した芹澤の言葉に眉をひそめて聞き返す。
「だから、今小川が登校してきたんだよ。早いから…て、三國?」
芹澤が言い終わる前に、俺を追って三國が校舎へ走る。
「行っちゃった…。あ。練習~。」
気にもせず、マイペースな芹澤はコートへ戻る。
「誰も居ない教室も、いいかも…朝限定で。」
カチカチカチ
教室のでかい時計の針が、静かだと余計に高く聞こえる。
眠りそう…と思った時だった。ガラッと戸が開いた。
「あれ?小川じゃん。早いね~朝勉?」
穏やかに、トゲも角も無く話しかけてきたのは、クラスメートの角田直希(つのだなおき)だった。生徒会長でもある。
俺が彼の問い掛けに答えようとすると、後ろから眼鏡姿で用紙に目を通しながら男が話しかけて来た。
「直希。軽音部の部費、削れないかな?て…小川じゃないか。珍しい。朝勉か?」
生徒副会長だ。
「会長や副会長みたいに、頭よくないからね。」
無理に笑ってみせる。
副会長の名は、対馬一成(つしまかずなり)という。会長とは幼なじみだ。
「その愛想笑い。気持ち悪い。ムカつく。」
いきなり飛び込んで来た声の方に、俺は無関心で振り返る。三國だ。
「お前、腹黒い。」
流石にちょっとムカついた。
「こら!そんな事を言ってはいけないんだよ!」
割って入ったのは角田。
そういえば彼は“お母さん”なる異名を持っていたと思い出す。
あ、因みにここは進学校なので二年生が生徒会を運営している。三年生は受験に専念出来るという訳だ。
ギャンブル好きな親を持って進学校?とか思うだろう。俺も姉も特待生だからね。奨学金で学校通ってる訳で、学年十番内を落とせないんだ。
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