第1章

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「実は俺もちょっとした探し物があってな。」 「・・・おじさんも?」 主人は飾ってあった写真立てを手に取って見つめ、健人に渡した。真帆はすかさず横から覗き見る。 「これ、誰?」 「息子だ。」 そこには今より少し若々しい主人と、20才くらいの青年が笑顔で映っていた。 「・・・息子さん・・」 「半年前までここに一緒に住んでた。」 「今は?」 「連れてかれたよ。離縁した母親にな。」 「・・・・・・・。」 「あの女は子供が大の苦手でな。息子が大人になったから、会社を継がせるために引き取りに来た。」 「・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・。」 「悪い、嬢ちゃんたちには難しい話だったな。」 「ううん、そんなこと・・よくあるよ。」 「よくある?」 「児童施設から来た。俺らも親はいない。」 「・・・・・そうか。」 気まずい沈黙が流れる。 そろそろ日が暮れてきたのか、薄暗い店内がぼんやりと赤くなり始めていた。 「そいで、お前らはどこに向かってる?」 「・・・・・・・。」 すっとんきょうな顔をした真帆に相対して健人がきっぱりと答える。 「海。」 「海か。それなら目と鼻の先だ。いい旅しろよ。」 「うん!」 「外のワゴンに必要なもんがあれば好きに持って行っていい。どうせ誰も買いやしねぇんだ。」 「ありがとう!」 真帆はワゴンの方へ走り、がちゃがちゃと中を探りだした。 「見つかったら・・・」 「あ?」 店奥に戻ろうとした主人に健人が言う。 「探し物、見付かったらまた会いに来る。」 主人は微笑んだ。 「楽しみにしてる。」 健人と真帆はワゴンから マッチ、懐中電灯、 皿、果物ナイフ、それから賞味期限の切れてないお菓子をいくつか持って 自転車の荷台に積み込み、走り出した。 主人の言った通り、 海はすぐ目の前だった。 5分も走らないうちに 広い海岸に出た。 潮風が肌寒い。
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