第1章

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大雨が嘘のように、よく晴れた。 太陽がギラギラと水溜まりを照らしている。 反射して、世界が一面眩しくなった。 倒れた自転車を起こし、2人はまた進んだ。 「あ・・、健人!健人っ!」 「なんだよ。」 「あれ!見てっ!」 真帆の指差すほうに、寂れた小さな酒屋がある。 自転車を止めて近付くが、まったく人の気配がしない。 店の外に出されたワゴンには、お菓子やコップ、灰皿、洗剤など、生活に必要なものがどれもほこりまみれだが、相当な安値で売っていた。 「らっしゃい。」 ワゴンを凝視する2人を見付けた酒屋の主人が、急に店内から顔を出したので 2人は驚いで後退った。 「・・こんにちわ。」 「なんだ嬢ちゃんたち、酷い格好だな。さっきの雨に打たれたか。」 「・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・はい・・。」 「入りな。いいもんやる。」 主人の入っていった店内を覗くと、薄暗く、全体的にほこりを被っていて、売れていないのがよく分かった。 電源のついていない大型冷蔵庫が店内を取り囲むように並んでいる。 中はビールや焼酎、無メーカーの見たこともないようなパッケージが目立つ。 2人が恐る恐る店内に入ると、主人は店奥から、服がたくさん詰まった段ボールを出してきた。 「息子のだ。好きに着な。サイズも合うだろ。」 「・・・いいの?」 「ああ。もう着る息子もいない。」 「・・・・・・・・。」 主人は寂しそうな顔をし、また店奥に入っていった。 健人と真帆は、湿って汚れた服を着替えた。 すると主人は店奥から出てきて、2人に温かいココアを無言で手渡した。 「ありがとう!」 真帆がにっこり微笑むと、怖面だった主人の顔も、ふとほころぶ。 甘く温かいココアは2人の心を優しく包んで溶かした。 「なんでこんなとこに来たんだ?」 「探し物してるの。」 ココアをすすりながら、真帆が答える。 「なに探してんだ?」 「“普通”、探してるんだけど、おじさんどこにあるか知らない?」 「・・・“普通”か。」 「・・・・・・・・・・。」 「どこにも見当たらないの。」 「見付けてどうする。」 「・・・・・・・・。」 真帆は目をまん丸くして健人の顔を見た。 「“普通”がないと、上手く生きれないだろ。」 健人が初めて言葉を発した。 「坊主、どんな環境で育ったんだか知らねぇが、ずいぶんとまぁ、いい眼をしてやがるな。」 主人は健人の頭を掴むようにして撫でた。
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