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今まで昼夜逆転の生活を続けていた健人は、一睡も出来ずにいた。
暗いうちは布団でゴロゴロと寝る努力をしたものの、気付けばあっという間に日は昇り、辺りは薄い白に覆われていた。
健人はそっと外に出て、施設の庭をふらふらと歩き回った。
さ迷い歩いていると、裏庭のまだ暗い花壇のところに、人影を見つけ、恐る恐る近付いた。
「・・・・・・・・・・なにやってんだよ。」
時刻は早朝4時。
真帆がシャベルを持って庭にうずくまっていた。
林のほうから、色々な鳥のさえずりが幾つも重なって聞こえてくる。
「・・・死んじゃったの。」
「・・・?」
「飼ってたインコがね・・・、ほら。」
真帆の手には明らかに握りつぶされたような無残なインコの亡骸があった。
内臓が破裂して外にはみ出している。
「・・・お前、殺したの?」
「・・・わかんない。けど、死んでたの。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・なんでそんな目で見るの?」
「・・・・・・別に。」
健人は静かに真帆の隣に座った。
「病気だったんだ、この子。毎日苦しんでて、可哀想だった。」
「・・・じゃあ良かったんじゃねーの。」
「なにが?」
「一気に死ねて。苦しみから解放されただろ。」
「・・・・・・・・・・。」
真帆はのぞきこむようにしてじっと健人の顔を見つめた。
「・・・・・・・・んだよ。」
「不思議・・・。今まで誰もそんなこと言ったことなかった。」
「普通は言わないだろうな。」
健人は視線から逃げるようにすくっと立ち上がり、
真帆に背を向け歩き出す。
「あなたは普通じゃないの?」
美香にするのと同じように、健人のすぐ後ろを小走りで付いていく。
「お前ほどじゃねーよ。」
「どういうこと?」
「お前は異常だってこと。」
「異常ってなに?いけないことなの?」
一度も振り返らなかった健人が立ち止まった。
「・・・・・・・いけなくはないか、別に。」
呟くように言って、またすぐに歩き出す。
「普通ってどんな人?」
同じ速度で真帆が付いていく。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・どうしたら普通になれるの?」
「俺が聞きてーよ。」
「そっか、あなたも分からないんだ。」
真帆は走って健人の前にまわり、泥とインコの毛で汚れた手のまま、突然健人の手を取った。
「じゃあ探そうっ!」
「・・・は?」
「・・・“普通”のありか、一緒に探しにいこう!」
真帆は目を輝かせてニコニコと笑っている。
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