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横たわる少女。その顔は笑ったまま、目は、俺を見つめている。目の闇が深くなった気がした。
「ニャァ」
抱えられていた少女の血で真っ赤になった猫が、少女の顔についた血を舐める。
この猫も殺さなければ。
少女を殺したサバイバルナイフを猫につきつける。
猫は何をするのかと、俺を見つめる。
「ニャァ」
擦り寄ってくる猫。
『なら、この猫は助けて。この猫は、何も悪くないから。お願い。』
少女の最後の願い。まぁ。これくらいは。
猫を抱える。俺にもまだ情というものがあったんだな。ふと、そんな事を思った。
猫を持って帰ると、周りがガヤガヤと騒ぐ。
――…「何だあれ。」「猫?」「食うんじゃないか。」「成程な。」「あの殺人鬼が飼うわけないよな。」「当たり前だろ。」「何か殺してないと気がすまないんじゃないか。」「ハハハ。有り得るな。」
…何とでも言えばいい。
無視して自分のテントへ向かう。
「おい。ゼロ。」
声をかけたのは長官。
「何でしょうか。」
「それは何だ。」
「…猫です。」
「どうする気だ。食うか?殺すか?」
ニヤリと口を吊り上げる長官。相変わらず下品な顔だ。
「…飼います。」
「あ゙?ぶ、ッハハハハハハハハハ!!!飼うだと?貴様がか?!」
「はい。」
「ふざけるな!ここは戦場。生きるか死ぬか。殺すか殺されるか。生死の場。なのに貴様は呑気に猫など飼うと言うのか?それに私は"皆殺し"と命令したはずだぞ。もちろんそれは猫もだ。貴様は私に逆らうと言うのか!今直ぐここでその猫を殺せ!」
「…すみません。ですが長官。この猫には罪はありません。」
「そうか。ならば私が殺してやろう!」
長官に猫を無理矢理取り上げられ、放り投げられる。腰からサーベルを抜こうとする長官。猫が…殺される。そう思った時にはもう体が勝手に動いていた。
自分もサーベルを抜き、長官のサーベルを弾き、長官の首寸前までサーベルをつきつけていた。
周りが静まる。
猫は上手く着地した様で、怪我はない様だ。
サーベルを戻し、猫を抱きあげてテントに向かう。
「大丈夫ですか長官!!」
「あぁ。何とかな。」
「あいつ…。何を考えてるんだ…!長官、罰を!」
「よせ。あいつを失って困るのは私達だ。」
「ですが…!」
「黙れ!」
体を奮わせる兵士。だが長官の言う事も確かだ。ゼロを失ってはこちらの戦力が大幅に衰えてしまう。悔しいが仕方が無い。
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