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ジリリリ……。
目覚まし時計独特のけたたましい音が、早朝の6畳の部屋に響いていた。
時計の文字盤には、『7:20』と表示されている。
カチッ。
着替え途中だった俺は、いつも通り右手の平手打ちで目覚ましを止めた。
入学祝いに買って貰った青い自転車型の目覚まし時計で、ハンドルがスイッチである。
前輪の部分には、その形を全く生かす事なくはめられた、デジタルの時計。
後輪には、温度計が設置されている。
こちらはアナログ。
色々と装備されているせいもあって、なかなかの値がついていたと母が自慢気に語っていた。
本当は新しい本物自転車が欲しかったのに。
両親は、俺がいつもリビングに下りてくるのが遅いせいか、学校に行くギリギリまで寝ていると思っていたらしい。
しかし、実際は目覚ましが鳴る1時間前には目が覚めている。
だから、この目覚ましは全くと言っていいほど必要ではない。
でも、使ってなかったらそれはそれで何を言われるかわからない。
だから、しょうがなく毎日鳴らしているという訳だ。
着替え終わった俺は、4Bの鉛筆を握り、描き途中だったスケッチを再開した。
今日の被写体は机の上に置いた野球ボールだ。
簡単だと思われがちだが、丸い円を描くだけでは『ボール』の絵には決してならない。
表面のゴツゴツした感じを出し、影を入れて立体感を出す。
背景にもこだわり、ボールという『メイン』と鉛筆立てや写真などのような『その他』を区別する。
この一連の動作によって、ただの丸い円だったものが『ボール』へと変化する。
この全ての過程が、俺がギリギリまで寝ていると思われているすべての原因だ。
そして、目覚まし時計をプレゼントされてしまった理由でもある。
最初に始めたのは、たしか中1のときだったと思う。
そう考えると、もう3年は続けていることになる。
毎日の習慣というのは恐ろしいもので、スケッチを行わなかった朝の違和感は計り知れない。
俺が神経質なだけなのかもしれないが、うちの両親が毎朝コーヒーを飲むのと一緒で、スケッチが俺にとっての目覚ましの儀式なのである。
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