1人が本棚に入れています
本棚に追加
ポキッ。
乾いた音を発てて、鉛筆の芯先が折れてしまった。
少し力を入れすぎたか。
ついてない。
鉛筆は毎回カッターを使って、自分で削っている。
鉛筆削りではどうしても尖り過ぎてしまう。
細い線はこちらの方が描きやすいかもしれない。しかし、『滲み』を表現させるには細すぎる。
やはり、自分で削った方が信用できる。
難点は時間がかかり過ぎてしまうことだ。
だから、芯が折れてしまったら今日の日課はそこでおしまいになってしまう。
ふと時計を見ると、8時まであと5分と示していた。
学校までは、大体25分くらいかかる。
8時30分を過ぎると遅刻になってしまうので、終わりにするにはいい時間だ。
むしろラッキーだったかな。
さて、行くか。
俺は真新しい通学カバンを持って部屋を出た。
今日は高校の入学式なのだ。
遅刻だけは絶対に避けたい。
俺は1階に降りてキッチンへ向かった。
マンガだったら、ここで食パンを口にくわえて、自転車に跨って走り出す。
なんだかんだ言って、結構憧れているシチュエーションだ。
俺は今日それを真似しようと思っていた。
理由はひとつ、ノリです。
しかし、人生はそう上手くはできていないようだ。
あのシチュエーションは食パンでこそ真価を発揮する。フランスパンでは面白味が感じられない。
朝飯は諦めよう。
その答えに行き着いた。
優雅にフランスパン食ってる暇はないしね。
ハア……。
やっぱりついてない。
鞄を自転車のかごに入れる。
そして気づいた。
これが高校生になっての記念すべきはじめの一歩だということに。
ここは気合いを込めて一歩を踏み出そう。何事も出だしが肝心だしな。
……よーし。
俺は自転車に跨り、力一杯ペダルを踏んだ。
最初のコメントを投稿しよう!