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「翔!」
ズルッ。
……俺ははじめの一歩を見事に踏み外した。
すかさず右斜め上を見ると、そこにはグレーの外壁の家の2階から叫ぶ女の子の姿があった。
女の子はパジャマ姿で、ところどころに寝癖が目立っていた。どう見ても寝起きそのものだった。
マズい……。
「よかった!乗せてってよ」
俺は力一杯ペダルを踏んだ。
「こら、みやけ しょう!!無視すんな」
俺は力一杯……
ガンッ。
……枕をぶつけられた。
諦めよう。
「夏樹早く乗れ!」
そういって俺は携帯の時計を見やった。
8時ジャスト……ギリギリになってしまった。
ハア……。
高校生になってもこれか……。
今年も溜め息が絶えることは無さそうだ。
夏樹は隣に住んでいる同い年の女の子だ。
俺たちが生まれる前から親たちが仲良かったらしく、小さい頃からどこへ行くにしても一緒だった。
まあ、世間一般で言う幼なじみと言うのにあたるのだろう。
学校も小・中と一緒、9連続同じクラス。要するに小・中全部同じクラス。
挙げ句の果てには高校まで一緒になってしまった。
ここまでくるとただの腐れ縁だ。
誰だって理想の幼馴染み像というものがある。毎朝寝坊ギリギリの俺を起こしてくれたり、ときに優しく、ときに厳しく接してくれる世界でたった一人の大切な……。
それに比べて夏樹は、毎日のように寝坊を繰り返す。
そして、俺が自転車で学校まで乗せて行く。
あの目覚まし時計は、夏樹にこそ必要だ。
因みに新しい自転車が欲しい理由はここにある。
毎日2人分の体重を支えてきたのだから、自転車がボロボロになるのも当然と言えば当然だけどな。
学校までは上り坂も多い。
電動自転車でもなければギアもついていない。
本当にいい運動になるよ……。
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