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    少し強く目を擦る。 1日中、パソコンの画面に向かっていると流石に疲れる。 (もう6時半か…) 私は、腕時計に目をやった。 今日はそろそろ切り上げて帰るか… デスクの書類をまとめていると、木村絢子が近付いて来た。 『まだ残ってたんですか?』 『あぁ。今、切り上げ様と思っていたところだよ。』 書類の束を、不要なモノと分けながら答えた。 『雪、平気でした。』 そう言うと、彼女は窓の方向を指差した。 『それは良かった。』 『でも寒かったぁ。』 そう言って手を口元に運ぶと、はぁ~っと冷えた手に温かい息を掛けて見せた。 『そうだ、これ預かってきました。渡辺さんが宜しくって。』 彼女が差し出した茶封筒を受け取る。 『ありがとう。遅くまでご苦労だったね。気を付けて帰るんだよ。』 『はい。お疲れ様でした。お先に失礼します。』 彼女は丁寧に頭を下げると笑顔を見せた。 私は机に向き直ると、茶封筒を開けた。 中には、依頼書とクリップでメモ書きが留められた白い別の封筒が入っていた。 封筒を開けると、中からチケットが二枚出てきた。 『迷ったけど、頼まれてたから入れとく。気晴らしに行け』 メモ書きにはそう書かれていた。 チケット。 妻が行きたがっていた劇団の公演チケットだ。 私は、今年の妻の誕生日を忘れていた。 いつもより遅く帰宅した私の顔を見つめた妻は、何も言わなかった。 先に風呂にすると言いリビングを後にした。 私は、ゆっくりバスタブの湯に躰を沈め深く息を吐き出した。 躰を解しながら、何気なく見た埋め込みのデジタル時計を見て思い出した。 今日は妻の誕生日だった。 慌てて風呂から上がると、脱衣場で躰を拭きながら台所で食事の支度をしていた妻を呼んだ。 ドアの隙間から顔を覗かせた妻に、忘れていた事を詫びた。 妻は小さく微笑み… 『気にしてない。』 そう言って台所へ戻って行った。
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