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  責められた方がましだった。 風呂から上がって、妻の用意した食事を口に運びながらそう思った。 台所で洗い物をしている妻に話し掛けた。 『なぁ。お前が行きたがってた劇団の公演はいつまでだ?』 『さぁ…でも、もう終わりですよ…』 妻は、顔だけ私の方へ向けて言った。 『そうか…。』 『いいんです。気にしてませんから。無理しないで下さい。』 前を向き、洗い物を続けながら、背中を向けて話す妻の顔は見えなかった。 数日後… その劇団の延長公演が決まったのを知ったのは、大学時代から付き合いがあった渡辺 篤(わたなべあつし)と仕事帰りに偶然会った時だった。 時間も早かったから、近場で男二人飲む事となった。 『そりゃマズイだろ。』 店に着き、渡辺と向かい合って座ると、私は妻の誕生日を忘れていた経緯を渡辺に話した。 『待てよ、確かその劇団、延長公演するはずだよ。ちょっと待ってろ…』 そう言うと、携帯を取出し番号を探しながら席を離れて行った。 大学卒業後、別の就職先になったはずが、今年から私の会社と取り引きを始めた事から再会した。 縁とはわからないものだと思った。 渡辺は、特に勉強が出来るタイプではないが、世渡り上手な男で、顔も広かった。 暫くすると渡辺は、携帯をスーツのポケットに収めながら席に戻って来た。 『やっぱり延長決まったみたいだぞ。ホラ、同じ学部の水上がそっち方面顔がきくから、今チケット頼んでおいたよ。』 『本当か?助かるよ。』 直ぐに手に入る訳ではないらしいが、延長公演内にチケットを手配してもらえると分かっただけで、気持ちが楽になれた。 今更…手元に届いたチケット。 スッと封筒にチケットを戻すとデスクの引き出しの一番奥にしまい、私は帰路に着く為席を立った。
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