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エレベーターホールを抜け、ビルを出ようとした所で壁にもたれかかっている絢子を見付けた。
近寄り声を掛けると…
『たまにはご一緒に夕飯なんてどうです?』
絢子はそう言って微笑んだ。
二人は夕飯を一緒にとる事にし、並んでビルを後にした。
ビルの間は、朝とは違う冷たさの風が吹いていた。
並んで歩きながら、絢子を見た。
思っていたより小柄な女性だった。
並んで歩いたり、社外で会うのは初めてだったので、少し新鮮な感じがした。
私の視線を感じたのか、絢子は軽く顔を上げ口を開いた。
『なんですか?そんなしげしげと…』
『すまない。思っていたより小柄だと思って。』
『女性は靴によっても変わりますからね。』
そう言って、足を前に突き出しヒール部分を見せた。
『なるほど。さっきと靴が違うね。』
『はい。通勤用です。足痛くなっちゃうから。』
『女性は大変だな。』
そう言って笑った。
私は彼女といると柔らかく笑う事が出来る。
今の私には、それが本当に救いだった。
暫く歩き、駅に程近い目的の店に着いた。
暖房の効いた部屋に入ると、肩に力が入っていた事に気が付く。
肩の力を抜き、コートを脱ぐと席に着いた。
向かい合った席に着くと、メニューから何点か選び注文を済ませた。
テーブルに置かれた水に口を付け、絢子が言った。
『奥様、見付かるといいですね。』
突然そう言われ、答えに詰まってしまった。
『ごめんなさい。余計な事ですよね。』
沈黙した私を見て、絢子は慌てて俯いた。
『いや。ありがとう。そう思ってくれて。』
『いえ。そんな…』
『私は、妻をよく知らなかったんだ。いや、知らなかったと言うのはおかしいかもしれないが…。居なくなって初めて、妻が日常何をしていたか考えたんだ。』
黙って私の話を聞いてくれている絢子に甘え、私は少しだけ話を続けた。
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