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  『当たり前の様に、毎日家にいて家事をやっていると思っていたが、実際は何処に居たのかも分からないんだ。好きなテレビ番組も、好きな歌すら知らない。結婚前までは、あんなに相手を知ろうとするのに、不思議なもんだよ。』 『そんなものじゃないですか?私は結婚はまだなんでよくは分かりませんが…、家族だってそうですよ。』 『ありがとう。』 お互い続ける言葉が見付からず、私も水を飲んだ。 その後は、二人は妻の話に触れる事なく食事をし、別れた。 私は、自宅の最寄り駅に降り、夜空の下歩いた。 また、ここから20分。 誰も居ない家に戻る。 当たり前の様に、カーテンから漏れる灯りを見て、暖かい玄関に入る。 それが毎日だった。 その灯りすら疎ましく思った日もあった。 でも、失って初めて有難かった事を知った。 この世の中に当たり前の事なんて、何もないのかもしれないな。 そう思い、なんとも苦い気持ちになった…。 (早く帰ろう…。) 冷たい風の中、重い足を進めた。
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