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  吐く息も白く空に消え… 髪の下から覗く赤い耳に、キンと切る様な痛みを憶える… この季節の朝は辛い。 駅までの20分間。 私は肩に力を込め、足早にいつもの道を歩く。 妻がいなくなって4ヶ月が過ぎていた。 あの日、買い物に行くと言い、フラリと家を出た妻の姿を視界の端で見送った。 普段なら、30分程度で両手に膨れ上がったビニールを下げて帰ってくる。 その筈だった…。 ただ、あの日…妻は帰っては来なかった。 何時まで経っても帰らない妻が急に心配になった私は、当たり前の様に玄関にそっと揃えてあったサンダルを履き家を出た。 あんな服装で遠くへ行く筈もないと思い、近くを捜し回った。 近所で、妻が仲良くしていた人の家も訪ねてみたが… 心当たりはないのかと、逆に訪ねられてしまった… 結局…自分が妻の事を何も知らない事にただ気付かされたに過ぎなかった。 ただひたすら歩き回り、夜中近くになり妻が普段乗っている鍵の付いたままの自転車を見付けた。 少し離れた場所には貯水池があり…薄暗く濁った水を静かに揺らしていた。 不安に駆られながら、警察に連絡し周辺の捜索を依頼したが… 妻が見つかる事はなかった。 現場から家に持ち帰った妻の自転車を、私は、ただジッと眺めていた。 錆付いた貰い物のシルバーの自転車。 こんなになるまで乗っていたのなら、新しい物でも買ってやれば良かったと思い目を伏せた。 数日経ち、警察からの連絡があった。 欄干に手をかけた跡が残っていたというが、貯水池から妻は見付からなかった。   失踪と事故の両面からも捜査すると言われたが、おそらく自殺と判断されるのは時間の問題と思われた。
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