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そんな青春の一ページを校舎の窓から眺めている生徒がいた。
「はぁ…」
窓枠に肘を置き、物憂いにため息をつく姿はとても絵になっている。
透き通るような白い肌、風になびくサラサラの黒髪、セールスの誘い文句の様な風貌だ。
そんな彼女は人間ではなかった。なに冗談ではない。
彼女の名前は祈梨(イノリ)。
れっきとしたまぎれようもない吸血鬼である。
「楽しそうねぇ、優七…」
彼女の目線の先には想い人、優七の姿が見えた。
楽しそうなら混ぜてもらえばいいのだが…彼女にはそうできない理由がある。
吸血鬼とは本来、昼に活動できる生き物ではないのだ。
日の光を苦手とする彼女達はそれを浴びると大変なことになってしまう。
まぁその話は端っこに置いておくことにする。
では何故、祈梨は昼に学校へ通うことができるのか?
それは……謎である。
知らないんだから仕方がない。
そんな訳で祈梨は学校へ通えているのだ。
「私も外に行けたらなぁ…」
空を見上げ眩しく手をかざす。
晴天なり。
だが祈梨にはこの天気が恨めしくもあった。
何故かは分からないが激しい日差しの時は体が怠くなってしまい、外には出られないのだ。
だからその時は校舎に篭っているしかない。
「まぁ昼に外に出られるようなっただけましよねぇ」
そんなことを思いながら祈梨は机に戻ると居眠りを始めた。
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