静寂心

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 玄関でキーロックを解除している音がする。 流は靴を脱ぎ、リビングで多分、時計を外している。静かに。 シャツのボタンを外しながらミネラルウォーターを飲むのだろう。いつものように。シャワーを浴びるのか、急に不安になってしまう。 一日中働いて、かいた汗を残したままであって欲しいと願うのに、今、ここにこられても困ってしまう、という焦りは虚しく、流は二階へ上がっていく。  自分は流の傍にいるのに、やっぱり取り残されてしまう。 こんな洗濯機の前で泣きそうになっている。    洗濯機は脱水を始め、さっきよりももっと激しく揺れ始めている。同時に、階段を勢いよく下りてくる音がする。  リビングに入り、キッチンを通り和室を覗いているらしい。 「加奈?加奈!」  流は、トイレを覗いた後やっと脱衣所の扉を開けた。  目を大きくしながら自分を見下ろす流は、とても大きくて、白いシャツから出る筋肉質の腕をとてもいやらしいと思ってしまう。  いつもならその腕を欲しいと思うのに、今日は汚く映る。  自分はいつもここにいるべきで、いない私をこんな風に探し回る。  これも無責任な優しさなのだ。 「眠ってないのか?」    洗濯機の音が鳴り響く脱衣所に座り込み、自分は一体何をしているのだろう。なんだか、おかしくて吹き出してしまった。笑いはついにこみ上げて、そのまま立ち上がる。 「お帰りなさい。」  流のわきを通ってリビングに戻ると、すでに朝の光は昇り、先ほどよりも部屋の温度が高くなっている気がした。  浩太。 「加奈。電話できなくてごめん。」
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