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雨は、全てを連れてくる。
屋根に。窓に。
ぶつかる激しい雨は、音を立てて時間を巻き戻していく。
二階から見る庭には、白木蓮の木が花も無く虚しく佇んでいる。春には、真っ白で大きく分厚い花びらが太陽を向き、開き咲く。
この家を決めたのは白木蓮の木があったからだ。分厚い花びらが恐ろしく大きな音をたて、次々と落下していくのを小学生の頃に見た。
一人で下校しているときだった。
落ちた花びらは、音からは想像できないほどに
柔らかくもったりとしていた。
その花びらに触れ、拾い集めながら、一人出て行く父を想って泣いた。
心の中で必死になって「行かないで。」と止めたけれど、想いは届かなかった。
絶対に言葉にしてはいけない言葉だった。
それは、父と母の問題だとわかっていた。
白木蓮は私を素直にさせる。
窓を開けて激しく降り狂う雨の中に腕を出す。
びたびたと大きな雨粒は肌へ留まり、弾けていく。浩太を連れてきてくれる激しい雨。
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