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息苦しいのは。
流が優しいから。
自分に気を使う流に甘えている。甘えてしまうのに、目を見ることも肌に触れることも出来ないでいる。
やっとの思いで切符を買い、やっと見つけたホームで、荷物を降ろし、大きく息を吸い込んだ。
一人では何もしてこなかった自分。
空と美海は、リュックを背負いホームを行き交う電車を嬉しそうに見ている。
大きなボストンバッグに三人分の荷物を詰め込んだせいか手のひらが真っ白になっている。いつもなら流が運んでくれる荷物。
大きくごつごつとした手、私を幸せにしてくれる流の手。
流が居なければ、一人で子供を連れて遠出することさえも私は緊張してしまう。
何度もホームを確認し、切符に書かれた時間と腕時計を交互に何度も確認している。
戻れるものなら、家に引き返したい。
「やっぱり帰ろう。」と言って、空と美海の手をひき帰りたかった。
自分が帰っていいのならば。
一緒にいて流を傷付けずにすむのなら戻りたい。
電車が軽やかに滑り込む。人は少なく、スムーズに座り込めたことに、心底安心してしまう。美海を膝に乗せ、やっと落ち着くことが出来た。
「一人で出掛けて来てもいいんだよ。子供のことは看てるから。」
昨日、流はそう言った。 少し気晴らしをしておいで、きっとそう言ったのだと思う。それを解っていながら私は、実家に行くと言ったのだ。
あの街に、あの家以外に、自分が行くところなんて無いのだ。
いつも流が一緒に居てくれるから、そこに居ることが出来ただけだ。
とにかく海に帰りたい、そう思った。
重たい潮の風、熱い砂浜の匂いの中で少しだけ浩太を探したい、どうにか浩太を感じたいと思って止まないのだ。
逢うことはなくても、そうしたかった。
地元に降り立ち、改札を抜けると母親が迎えに来てくれていた。真緑のワンピースにアイボリーの大きなつばの帽子を被って、嬉しそうに手をあげていた。
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