17人が本棚に入れています
本棚に追加
控えめにつけた冷房の中で浩太は。
やっぱり前を向いたまま、やんわりとゆっくりと言葉を発していた。
暗い車内では、もう誰の歌だか忘れてしまったけれどレゲエが流れていて、月の明かりだけで浩太を見ていた。
オレンジ色にひかる満月だった。「本当に、結婚をするのなら、もう私をふってほしいの。」
もう既に欲張りになりすぎていたのだと思う。
浩太を欲しくて仕方なかった、自分以外の誰かが浩太に触れることが嫌だった。
でもやっぱり浩太は、他人事のように言ったのだ。「もう無かったことには出来ないよね、親にも話してあるんだし。」
雲に消されることもなく丸く満ちた月は、浩太の部屋のオレンジ色によく似ていた。
「このまま。こういう形で会うことは出来ないの?」確かそんなことも言っていた。
自分だけが想っていたのだと気付くのが遅かった。情けなくて笑いそうだった、笑いたかったのに、泣いたのだ。
笑えたら楽だった。車から降りて歩き出しても、浩太は車を走らせずにいた。
それは余計なことだった。
そんな風にそこに留まって、考えるのならば。
彼女と別れると口だけでも、嘘でも言ってくれたらよかったのに。
愛し合っていると思っていたのは自分だけだった。
最初のコメントを投稿しよう!