静寂心

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 控えめにつけた冷房の中で浩太は。  やっぱり前を向いたまま、やんわりとゆっくりと言葉を発していた。  暗い車内では、もう誰の歌だか忘れてしまったけれどレゲエが流れていて、月の明かりだけで浩太を見ていた。 オレンジ色にひかる満月だった。「本当に、結婚をするのなら、もう私をふってほしいの。」 もう既に欲張りになりすぎていたのだと思う。 浩太を欲しくて仕方なかった、自分以外の誰かが浩太に触れることが嫌だった。 でもやっぱり浩太は、他人事のように言ったのだ。「もう無かったことには出来ないよね、親にも話してあるんだし。」  雲に消されることもなく丸く満ちた月は、浩太の部屋のオレンジ色によく似ていた。 「このまま。こういう形で会うことは出来ないの?」確かそんなことも言っていた。  自分だけが想っていたのだと気付くのが遅かった。情けなくて笑いそうだった、笑いたかったのに、泣いたのだ。 笑えたら楽だった。車から降りて歩き出しても、浩太は車を走らせずにいた。 それは余計なことだった。 そんな風にそこに留まって、考えるのならば。 彼女と別れると口だけでも、嘘でも言ってくれたらよかったのに。  愛し合っていると思っていたのは自分だけだった。
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