静寂心

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 目を開けるとゴーグルをつけた空が顔を覗き込んでいる。 「おばあちゃんと出かけてくる。」  昨日、七海の店で飲みすぎたことを思い出す。 「美海は?」 「美海も。三人で。じゃあね。」 「空ー、今何時なの?」 「一時だよ、もう。」  そう言ってものすごい勢いで階段を下りていく。そんなに早く階段を下りられるようになってしまった空・・。額に手を乗せ見上げる天上は、幼い頃から過ごした時間に等しく濃い茶色になっている。    自分が過ごした部屋、懐かしいのに、よそよそしい部屋。母は、寂しくないのだろうか。少し歳をとった母親。こんなに各自が思い出を残していくこの家で、自分の思い出も重ね、一人で寂しくないのだろうか。 自分が使っていたベッドも机もカーテンもなくなってしまったこの部屋で一人になってしまった。 お香の香りはもう消え、母親の好むアロマオイルの香りが複数混じりあうこの部屋で、何故なのか自分は、泣いている。  一人で居ることが寂しいのか流の浮気のことなのか、一人になってしまった母を思い、悲しいのか、もう訳が分からなくそのまま、海の音と海水浴を楽しむ声を聞きながら泣きまくった。仰向けのままの涙は、耳へと伝う。自分は、泣きたかっただけなのかもしれない。 浩太を想った、それもあるのだと思う。  言葉に出来ない感情だけを出せた。  浩太と別々の日々を生きているのに、重くて静かな、でも確実な気持ちに、自分は気付いている。 もうすぐ私は、二十七歳になるのに、五年前、浩太を見つけて愛したまま、ここまで来てしまっている。  流に、会いたかった。会って、放さないで欲しい。
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