静寂心

23/24
前へ
/138ページ
次へ
 布団から這い出て、キッチンに下りた。冷蔵庫の前で少しだけ考えて、涙を拭いてからビールを取り出す。冷えたビールは、たまらなく美味しい。 でも、とラップのかかった素麺を水道の水で解しながら思う、でもやっぱり、昼間のビールは寂しくなる。 素麺を食べていると理香から電話が来た。 「今日、夜出れる?  飲みに行こうよ、イベントあるし。」 「うーん、行こうかな。」 「うん、久しぶりに。気晴らししなさいよ。」  やっぱりさばさばと物を言って、電話を切った。  久しぶりに足を踏み入れる場所。 空気は懐かしいのに、自分は随分、歳をとったのだと思ってしまうのは、周りの人があきらかにまだ若く、元気があるからだ。  やけに落ち着き払った、理香と自分。  音には、特別乗ることも無くジントニックばかりを飲んでいる。  話しかけてくる男は、あきらかに年下でそれが何故だかすんなりと入り込んでくる。遊びにしかならない男の子。次々と変わる音、心臓に染み入るレゲエ。久しぶりに聴いても尚、やっぱり好きだと感じる。それだけで、幸せさえ感じる。若いドレッドの男の子と一緒に理香は、楽しそうにフロアの中央に入っていく。地黒の綺麗な女の子。 流が居ないこの場所で私は、自分を守らなければならない。 母親だから。妻だから。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加