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音を並べ乗せていくセレクターはまだ若く、ラスタカラーのニット帽を被り、体を揺らす。
魅力の無い痩せた体、ラスタの帽子。少し冷静にひいたりもしてしまう。
自分はすっかり落ち着いてしまったのだと改めて思う。
私は、流の中にすっぽりと落ち着いてしまっている、そんな気がした。
ジントニックを口に運ぶ、今この瞬間。浩太の気配が流れた。
それはもう、絶対に。
浩太の風。
今と昔をこのフロアで錯覚しているだけだと思いつつ、入り口に目を向ける。扉を開け、今まさに浩太は入ってくる。眉間に力を込め、目を凝らし誰かを探している。
自分はゆっくりと浩太を目で追う。何故か安心しながら。穏やかな気持ちになるのは、久しぶりだと感じる。微笑みさえしているかもしれない程に。
浩太に逢えたとわかっていた。
自惚れや思い込みではないとはっきりわかる、私は今日ここで浩太に逢えることを知っていたのだ。
暗いフロアの中、胸を劈く音の中で浩太が私を見つけてくれることを知っている。
自分に歩み寄る浩太の目は、美しく優しさを満たすから、目が離せなくなってしまう。
相変わらず丸刈りで、大きなTシャツにハーフパンツを合わせ、足首にパトワを連れて近づいてくれる。
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