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エレベーターの扉が開くのと同時にゆっくりと手を離し、歩き出す。
大人になってしまった、親になってしまった私たち。
浩太の腕も大きな背中も、しなやかに伸びるふくらはぎも足首のパトワも。
手を伸ばせば触れることが出来るのに。触れたくて切なくて、苦しいのに、愛おしくて仕方が無いのに。手を離してしまった人。
もう一緒になど生きられない現実。
スナック、居酒屋の前を行き交うサラリーマンやホステスをかわし、私と浩太は少し距離を保ち歩く。浩太の後ろを歩きながら、浩太の子供を想う。朱色の空と書く「朱空」そら君を。確かに結婚をしてしまった浩太。
確実に命を持ち生まれてきた。浩太の左手にはめられた結婚指輪を見ながら父親になってしまった浩太を想像する。
流のように、子供と本気になって遊ぶ浩太。そこに居るのは、自分ではない。自分の結婚指輪を感じながら、何も話すことなく歩く。
寂しいまま、でも満ち足りている。
この満ちすぎてしまう気持ちをどう言葉にできるというのだろう。
ダイもショーンも居なくなり、日本人の大学生がアルバイトをしているあの店で、私たちはミツを飲んだ。
何も変わらない店内に昔の自分達は確かに居た。きっとこれから、この店に来ることは無くても、あの頃の自分達は変わらずにここに居てくれると思える。
というより、私たちはもう終わることが無いのだと思う。
浩太の動作も言葉もいちいち見て確かめることもなく、浩太を理解することが出来てしまう。
自分と繋がる浩太の左手、温かくて父の手。
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