途中

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 車に乗り込んでも尚、手を繋いでいてくれる浩太。  早く二人きりになりたかったのに、じっとして動けない。そんな感じがする。 手を離すことはもう嫌だと思ってしまう。Bujuを聴きながら離れたくないと思ってしまう。 「後悔している。」浩太はそう言った。  逢いたかったのはお互いで、愛したままだったのは自分だけではなかった。 「加奈は、幸せなの?」   幸せではないといえるだろうか。自分はきっと不幸ではない。 浩太と逢えたのに、自分は流に話しかけてばかりいる。 「ねえ、流。浩ちゃんに逢ってしまったわ。」「ねえ。流、自分から浩太は消せない。」と、何度も話しかけている。  自分は、何を後悔する?流との結婚?浩太との別れ。  今はっきりと見える、流への愛と浩太への愛。自分は、きっとこれからも流と生きていく。躊躇いも戸惑いも持たずに、当たり前に。だって、流が私を甘やかす。「どうしてそんなに甘やかすの?私を。」と訊く私に、流は言った。「甘やかして、甘やかして、俺じゃないとダメだって、言わせる。」目尻にしわを寄せてそう言っていた。  自分は、流といろいろなことを話し合い、決めて、解決してきてしまっている。空のことも美海のことも。解決して乗り越えて、新しい習慣を作ってしまっている。 自分は流の中にもう既にすっぽりと納まってしまっている。 それはきっと不幸なことではない。 浩太だって、結婚を後悔したとしても海っ娘の妻といろいろなことを解決してきている。  その間にいる、朱空君を含め、もう家族なのだ。  何も壊せるものはない。明確になってしまうこと。焦がれすぎて狂おしく、愛しい想いは変わらないのに。じっとして動けない。 「泣かないで、加奈。」
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