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ひらがなの声。
綺麗な指先は、もう父親の手。
その手で私の顔を包む。
「浩ちゃん。逢いたかったの。ものすごく。
逢いたくて仕方なかった。」
「わかってる。それは俺もだよ。」
明確になってしまう現実を認めたくないのだと思う。
手を離さないで欲しい。
極自然に、必然的に一緒に生きたい。
浩太の帰りを夕飯を作り、待っていたい。朝も眠りにつくときも傍でぎゅっと抱き寄せていて欲しい。
「加奈。愛してるよ。」
でも、思いは、それは無理なのだと浩太は言う。言葉にはせずに。
悲しく「愛してる」と言うから、自分は浩太の肩の向こうに目をやった。
浩太の悲しい、愛の目を今は見たくない。
不幸ではない私たち。朱空君がいて、空と美海がいる。
後悔ならもう、うんざりするほどした。
浩太の肩の向こうに見える、人工のヤシの木。夏らしくそこにある、その木に触れたい。
浩太を愛して止まないのだと聴いてほしい。私の髪を撫でる浩太を今、抱きしめたい。
でも自分達は不幸ではない。
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