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自分自身に浩太を纏わり付かせていたい。
キッチンにいても家族で出掛けていても、自分の周りにはいつも、浩太がいて。
その想いだけで幸せだったり、世界がオレンジ色に輝いた。
…自分の周りに浩太を感じてしまうこと。
それは、空に対しての重い罪悪感になっていた。
こんな母親であることがどうしても許すことが出来ずにいる。
「いつか…新井になって?かな。」
浩太は突然そう言った。
結婚しよう、と。
結婚をしていて、子供がいる私に。
そう言った。。
あの時から、自分の中で、それまでとは、全く別の方向へと変わるものが生まれたのだと思う。
自分のしていることが 浩太の人生にどれだけ加わっていくのか…
不安が付き纏い始めていた。
一人息子の浩太の姓を私が名乗ることなど、果たして出来るのか…
それは、正しいことなのか…
浩太の家族。空の人生は?
簡単に、安易に一緒にいてはいけないのだと、自分自身が重荷に変わってしまった。
もう、この苦しみを止めたい。
終わりにしたい。
きっと。
今よりは、楽になれる。
夫に殴られているときすら、浩太に会いたくて仕方なかった。
痛みは、浩太の声で薄らいで、傍に浩太がいなくても、浩太は私の中にいてくれた。ずっと助けてくれていた。自分の中にいる浩太まで殴られているような気さえしていた。
もうどうしようもなく。
愛してしまっている
だから、終わらせなきゃいけないのだ。
別れなくては 苦しいだけなんだ。
ハンドルを見つめたまま動かない浩太は。何を思っているのだろう。怒っているのだろうか、それとも、悲しんでいるのだろうか。
窓から見下ろすガラス張りのパチンコ店は、外の暗さなど感じさせないほどに明るく、思い思いに遊戯する人がきれいに並び腰を掛けている。
今。 浩太が何を思っているのか私にはわからない。いつもこんな風だった様な気がする。愛していて。それよりももっと大きな愛で包まれてはいるのに、時々見せる悲しみの表情や冷たい雰囲気に私は戸惑っていた。
それでも胸の内を聞くには至らなくて、と言うより聞くことはものすごく、怖いことだったし、浩太もぶつけてはこなかった。ただ、冷静に穏やかに、強く抱き寄せることしか浩太には出来ないようだった。
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