Ⅶ 指輪

2/2

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
少し涙ぐんだ目から涙がこぼれ、それをそっと唇で吸い取ると、彼女をしっかりと腕の中に抱き留めた。 『僕があなたを守るから。そばにいるから。』 それを聞いて堰を切ったように激しく泣く彼女は、今までの明るい強い彼女ではなかった。けれどどれよりもいとおしく離したくなかった。 『ずっと好きだったんだ。ずっと…。』 そう、たぶん初めて彼女を見かけたときから。はっきりと顔さえ見えていなかったのに、3つ先の席に座っている彼女の声、仕草、経ち振る舞いのすべてが気になって仕方なかった。 そしていつもはめている結婚指輪が悔しかった。自分以外の誰かに抱かれていると想像するだけで、あたりかまわず叫びだしたい衝動を押さえるのに必死だった。 けれどいつも考えないようにしていたのだ。彼女が僕のものになる日は永遠にこないと諦めようと。 手探りで、指を絡ませると、左手の薬指に有るはずの指輪がない。 『指輪が…。』 『外してきたの。』
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加