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少し涙ぐんだ目から涙がこぼれ、それをそっと唇で吸い取ると、彼女をしっかりと腕の中に抱き留めた。
『僕があなたを守るから。そばにいるから。』
それを聞いて堰を切ったように激しく泣く彼女は、今までの明るい強い彼女ではなかった。けれどどれよりもいとおしく離したくなかった。
『ずっと好きだったんだ。ずっと…。』
そう、たぶん初めて彼女を見かけたときから。はっきりと顔さえ見えていなかったのに、3つ先の席に座っている彼女の声、仕草、経ち振る舞いのすべてが気になって仕方なかった。
そしていつもはめている結婚指輪が悔しかった。自分以外の誰かに抱かれていると想像するだけで、あたりかまわず叫びだしたい衝動を押さえるのに必死だった。
けれどいつも考えないようにしていたのだ。彼女が僕のものになる日は永遠にこないと諦めようと。
手探りで、指を絡ませると、左手の薬指に有るはずの指輪がない。
『指輪が…。』
『外してきたの。』
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