Ⅸ 立ちはだかる壁

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昔から僕は何のために生きているのかわからなかった。何不自由ない平均的な普通の家庭に生まれ育ち、なんの不満もないはずなのに、生きていることが楽しいとは思えなかった。自ら命を断つ程ではないにしろ、ただ漠然と生きていた。生きたいと願うような気持ちになることは永遠にないのではないかと思っていた。 けれど、僕は今はっきりとわかった。今まで僕は本当の意味で生きていなかったのだと。あらゆることが楽しく、意味のあるものとして輝き始めたのだ。雨上がりの空気のさわやかさ、夜空にひっそりと輝く月、日が沈んだ直後に微妙なグラデーションで染まる空。この世の中はこんなにもきれいでいとおしいものだったのかと、驚きと感動の連続だった。 『どうしたんだい?最近調子良さそうだな。』仕事の同僚達がそう声をかけていく。向かうとこ敵なしと言った感じで仕事も恐ろしいほど順調だった。
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