ⅩⅡ進まぬ離婚

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出社すると上司から転勤を内示された。 『今、この時期にですか?』 年度途中だし、普段なら転勤などない時期だ。しかも、一週間後と急すぎる。 『支店長の配慮でね。ここからもそう遠くない。隣県だからな。』 『どうしてまた…。』 『支店長の指示されたことに関しては、進展したかね?』 はっと思い当たった。あれから彼女の離婚に関しては何も進んではいない。 『隣県の支店長からちょうど人材の要請があったので、君が選ばれたと言うわけだ。何か不満でも?』 『…いえ。』 彼女と遠くなる…。車で一時間と、決して行き来できない距離ではないが…。 『今、業績を伸ばしつつある君を隣県に転勤させるのは、うちの支店にとっても痛手なのだよ。けれど、それが君にとっても、うちに社にとっても最良の選択だと判断した。仕事の引継ぎを頼むよ。』 肩をぽんっと叩かれ、すれ違いざま小声で一言。 『転勤すれば、彼女と別れずに時間稼ぎできるだろ?』と。 支店長の配慮…。これ以上なくありがたい配慮だった。
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