ⅩⅤ 悪阻

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悪阻は相変わらずで、僕は彼女がどうにかなってしまいそうで、落ち着かなかった。あれだけよく食べていたのに、今は一口、二口と小鳥がついばむ餌のようだ。 けれど彼女は食べる気にならないことより、頭痛がつらいという。 『勤務先で、悪阻で休ませてくださいといったら、まるで怠けているかのようにいわれたの。』珍しく憤慨気味で、テンションがあがっている。 『きついか、きつくないかは主観の問題なんだから、あんな風に言われたくないわ。』大きなため息をついた。 『だけどね、来週から悪阻で入院しますっていったら、急にそんなに体調悪いのかって。ずっと悪いって言っていたのにね。』少し口を尖らせた彼女がかわいくて、唇にキスをした。 『来週から毎日逢えなくなるんだ…。あなたが心配だな。』いとおしくて仕方のない彼女を、記憶にとどめておきたくて、長くてきれいな髪を指で梳いた。 『私は一番素敵な宝物をもらったもの。悪阻はきついわ。だけど今、私はこの子をお腹の中で大切に育てて生みたい。』
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