ⅩⅥ 時間がない

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転勤してから二ヵ月が過ぎようとしていた。新しい職場も快適で、働きやすかった。彼女のお腹の子の発育も順調で、妊娠前と比べると全体的にふっくらとした印象を受けた。 『二回目の調停はどうだった?』 『全く離婚する気がないみたい。何回やっても変わらないかもしれない。』 『離婚調停で決着つかなきゃ、最後は裁判かな。』 裁判…。あ、そうだ。大事なことを思い出した! 『どうしたの?』 『確か、離婚して6ヵ月以内に女性が生んだ子は、離婚前の夫が父親になるんじゃなかったっけ?』 『え?ほんと?』彼女の出産6ヵ月前に離婚が成立しないと、この子の父親は元夫になってしまう。そのあとの親権や養育権のことを考えると、彼女の妊娠が発覚するまえ、しかもあと一ヵ月間でなんとかしなくては…。 そこへちょうど、彼女への調停打ち切りと、僕への損害賠償請求の裁判に関する内容証明郵便がとどいた。
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