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「ねぇ、燎夜くん。君には夢はあるかい?」
その当時の俺の夢と言えば、大切な幼なじみの少女を幸せにすることだったと思う。
いや、今でも変わってないんだけど…
俺はそう答えて、逆に千里さんに夢を聞いた。
千里さんは小さく笑って空を見上げながら言った。
「今私はこうしてパティシェとしての夢を追いかけ、勉強できる。でもね、世の中はそんな人間だけじゃないんだよ」
そう語る千里さんはどことなく悲しげだった。
「今も世界のどこかで罪もない子供たちが兵士となって未来を奪われている。学問を学ぶこともできなくて、世界のことを知らない子供がいる。」
千里さんは手を強く握りしめた。
「私はね、自分が作ったケーキでそんな子供たちに笑顔をあげたいんだ」
崇高な夢。
だからこそ、かなえることは難しい。
「いつだったかなぁ…イランのある地方に行ったことがあるんだ。そこで会った子供たちは兵士として働いていた」
俺は遠いイランの地を思い出してみた。
子供の頭にはいくらか大きいヘルメットに、重い銃。
埋められた地雷は、自分の命を、未来を脅かす。
「子供たちは砂糖というものの存在も知らなかった。私は持って行ったありったけの食材で、お菓子を作ってあげたんだ」
千里さんの口元にほほえみが浮かぶ。
「初めて食べたんだろうね。すごく驚いた顔で、嬉しそうに笑いながら…食べてくれた」
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