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キィ……キィ……
不快な金切音を上げて軋みを上げる床の上で金髪の少年と少女がゆっくりと歩いている。
深い山中にある古小屋には、彼ら以外の気配は無い。
街灯も無く、少年が片手に持つライターだけが揺ら揺らと辺りを不安定に揺らしていた。
手を固く握り合っている辺りを見ると、二人はカップルなのだろう。
お揃いのシルバーリングを指に填めながら相手の存在を確かめるかのように、強く手を握り合っている。
彼がここに来たのは単なる好奇心では無い。
運命だ。
なんて言ってみたいものだが、今は八月上旬。
ほとんどの国や地域で同じ事が繰り広げられているだろう。
単なる肝試しだ。
ただ、二人は運が無かったと言うだけで。
「ショーン……ここ気味が悪い…」
不安そうな面持ちで少女が少年に話しかけた。
「俺が付いてるから大丈夫だよ。」
頼りになる言葉を吐いて、唯一繋がりあう左手に力を込める。
「もう出ましょうよ…」
それでも恐怖が拭えないのか、少女は急かすように少年の腕を引っ張った。
「エナ…大丈夫だよ。 もう少し進んだら引き上げようか。」
少年は昼間にこの小屋を訪れて、彼女を驚かす準備をしていた。
そのことに頭がいっぱいで、恐怖など微塵も感じてはいない。
二人は一つのドアの中に入ってゆく。
ここは少年が彼女を驚かす仕掛けをした部屋だ。
少年は好奇心を、少女は恐怖心を胸に秘めながらゆっくりと部屋の中へと消えて行った。
背後でドアが音も無く閉じるのにも気づかずに。
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