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「満足した?」と祐は笑顔を見せた。
夕日が傾き消えて行こうとする。
まだ残る夏の熱気で暑い廊下で、俺・・・桑原健は藤祐輔と一緒に教授室の前にあるベンチに腰を掛けていた。
煙草に口をつけ、吐き出した息が白く染まる。
その隣で、待ち疲れた祐が目を閉じた。
『戻ってこねぇ』
僕等を呼び出した鏡教授は部屋に居ない。
『帰ろうか、祐』
俺の言葉に祐はゆっくりと瞼を上げた。
「授業中かも知れないから終わるまで待ってみよう」
『仕方ないか』
呼び出したのは鏡教授。
教授にしては若く綺麗な女性で、酷い厳しい教授として有名な変わり者だ。この前提出した宿題の件で顔を出すように言われたのだか、教授の姿はない。
留年を覚悟している健は提出物に文句を言われて単位をくれなくても構わない。
まだ単位をくれないと決まった訳ではないけど。
「静かだね」
あまりの静けさに祐はポツリと呟いた。
『もうすぐ夜になるからね』
授業はまだあるが、外はゆっくりと暗くなっていた。
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