2.手を出すな

9/42
前へ
/536ページ
次へ
「照れてんでしょ、それ」 ユーリはそう言いながら、後頭部を掻くオレの右手を指さす。 「たまに誰かに誉められたりすると、いつもそうやってるし」 「………」 …不思議なヤツだ。オレを嫌いだと言いながらも、そんな細かいクセまで見ているのだから。 「…そんなのどうだっていいでしょ! 行くわよ!」 顔も耳も真っ赤に染めたユーリは、怒ったように声を張り上げ、ずんずんと先を急ぐ。 「…はいはい」 返す言葉は適当だが、心の中は複雑だ。 (…嫌い、か…) 昔のオレなら、ユーリのことは「嫌い」だと、はっきり言えただろう。 しかし今は、 (正直…分かんねーな…) あいつの全てが好きとか、そんなことは思ってないさ。身の毛もよだつ。 しかし、全てが嫌いというわけではない。それも本音だ。 (………) もしかして…今、最も微妙な位置にいるのって、オレなの? 「はぁ~~~…」 ため息をついたオレは、ユーリの小さな背を追う。 葛西晴海は、柱の陰に身を潜めていた。 「………」 鋼介とユーリ。二人の様子を見守りながら、表情を固くする。 「………」 ふと気がつけば、拳も固く握りしめていた。
/536ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89159人が本棚に入れています
本棚に追加