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「照れてんでしょ、それ」
ユーリはそう言いながら、後頭部を掻くオレの右手を指さす。
「たまに誰かに誉められたりすると、いつもそうやってるし」
「………」
…不思議なヤツだ。オレを嫌いだと言いながらも、そんな細かいクセまで見ているのだから。
「…そんなのどうだっていいでしょ! 行くわよ!」
顔も耳も真っ赤に染めたユーリは、怒ったように声を張り上げ、ずんずんと先を急ぐ。
「…はいはい」
返す言葉は適当だが、心の中は複雑だ。
(…嫌い、か…)
昔のオレなら、ユーリのことは「嫌い」だと、はっきり言えただろう。
しかし今は、
(正直…分かんねーな…)
あいつの全てが好きとか、そんなことは思ってないさ。身の毛もよだつ。
しかし、全てが嫌いというわけではない。それも本音だ。
(………)
もしかして…今、最も微妙な位置にいるのって、オレなの?
「はぁ~~~…」
ため息をついたオレは、ユーリの小さな背を追う。
葛西晴海は、柱の陰に身を潜めていた。
「………」
鋼介とユーリ。二人の様子を見守りながら、表情を固くする。
「………」
ふと気がつけば、拳も固く握りしめていた。
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