2人が本棚に入れています
本棚に追加
【Ⅷ】
「なあ、知ってるか?」
何の突拍子もなく、朝の訓練を終え、自由な時間を与えられた今、静かに空を眺めていた俺に、奇妙な笑みを向ける男。
知ってるか、と言われても、何を、を言わなければ判る筈もない。
脈絡の無い会話に、俺はただ首を傾げた。
「最近よぉ、消えるんだと」
『…何が』
「人間さ」
『?』
勿体ぶるような、俺が首を傾げる様が面白いような、男は更に笑みを深めて俺を見る。
「人間が、消えるんだ。何の前触れも無く」
神隠しだ、と男は言った。
眉をしかめた俺を見て、エヴァには言っても仕方がないか、と溜め息をついて、恐らく他にも言い触らすのだろう、話し込んでいる集団へと男は向かった。
(…くだらない)
大した娯楽も無く、ただ己の肉体を強化する場所だからこそ、偶に舞い込む信憑性の欠片もない話題に飛びつくのだろうが。
一体どこで聞いたのか。
いや、もしかしたら、ただの暇つぶしで誰かが勝手に言い触らしたのかもしれない。
そう言う連中に限って、その話の内容よりも、そこから想像し、騒ぎ笑い合う事の方が主な目的。
話題なんて何でも良い。
ただ、馬鹿騒ぎする元が欲しいだけ。
くだらない。
くだらない。
目で見ぬものを真実とし、見ている筈のものを偽りだと否定する。
何の為の眼だ。
何の為の脳だ。
(愚か…)
それにすら、気付いていない。
<何れ気付く>
<全てが手遅れの時に>
†
最初のコメントを投稿しよう!