一 目が覚めたとき、俺の

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「あのねえ。夏合宿以前に君が犯した罪はある程度把握してるんだ。君はこの先ずっと黙っていても刑務所送りになる。いや、医療刑務所送りだな。君は手足もなく生殖器も失った芋虫みたいな体で、一生ベッドの上だ」  俺の意思と関係なく眉がピクピクと痙攣する。 「司法取引なんて日本にはない、建前上はね。君は裁判で実刑判決を受けたならば医療刑務所に入所だが、あまりに受刑者が重症である為に一般病院で入院という事があるかもしれない。あるいは補助具をつけて一般の刑務所に入所という可能性だってある。一般の刑務所はイジメが激しいらしい、奴等は他に楽しみがないからな」  眉どころか口角も痙攣し始めた。  俺を脅して楽しんでるのか? 「可能性の世界でいえば、例えば君の病状が今夜突然激変するってことも有り得る」  年寄りの刑事が点滴の袋を握った。  ブドウ糖入りの生理食塩水が勢いよく血管に流れ、俺の心臓が大きく脈打つ。  心臓が痛くて俺は小さく叫んだ。 「間違えて消毒薬を点滴する可能性だってあるし、君の好きな鎮静剤の量を間違える可能性だってある。医療関係者も人だからミスの一つや二つはするものさ」  本当に脅しか?  こいつら刑事だからさすがに俺を殺したりはしない、だろうか? 「可能性だけでいえば、君はミランダ研究会に入会せず普通に暮らしていた可能性だってある。まあそんなことはどうでもいい。もう分かっているだろうが我々の質問に素直に答えるかどうかで、心証が変わる。これまでの罪で君の刑務所行きは確実だ。そこのところをよく考えてから返事をして欲しい」
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