一 目が覚めたとき、俺の

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 俺の頭の中で年寄り刑事の言葉が反芻された。  ミランダ研究会に関わらずに、普通に暮らすだと?  そりゃ可能世界のどこかには、俺が普通に暮らす世界もあるだろう。  だけど今の俺は肉塊になりベッドに横たわるだけだ。 「黙ってないで、そろそろ話してくれないか?ミランダ研究会の夏合宿で何があったんだ?」  あった。  方法が一つあった。  崎田だ。  確か奴は自由に肉体から離脱して、多重世界を行き来していたはずだ。 「まだ自分の立場が分かってないのか!お前なんざ証言しなければ虫けら程の価値もないんだよ!」  若い刑事さん、俺を怒鳴るなよ。  今俺は革新的なアイディアに喜びを覚えてるんだ。  他の多重世界に住む健康な俺の体を、スカッと乗っ取ればいいんじゃねえか。  こんな芋虫みたいな体に用はない。 「自分の立場は分かってます。今から証言します」  崎田を呼ぼう。  ミランダ研究会の秘密をバラすフリをすればきっと奴は現れる。  今奴はたぶん肉体から離脱した状態だから、きっと俺を肉体から剥がすだろう。  それからがチャンスタイム!  肉体から離脱したら、奴が何かする前に逃げてやる。 「やっと我々の意見を聞き入れてくれたみたいだな。では質問しよう。まず、武田君がミランダ研究会に入ったきっかけは?」  若い刑事がレコーダーのスイッチを押すのが見えた。  俺の声を録音したいのかよ。  裁判の証拠にでもすんのか?  ていうか、俺が本当の事をいうと思ってるのか?
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