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テンポのいい音楽が流れ、華やかなビルが並ぶ。
街中は人に溢れていた。
その激しい流れにもまれながら、遥は街を徘徊していた。
遥のシャツは肩からずり落ち、既に片方の靴は脱げ裸足である。目の焦点は合わず、ただ貪欲に何かを求めていた。
人々は遥の姿を見つけながら自分の視界から抹殺し、決して映そうとはしなかった。
やがて遥は街の流れから排除されるように、路地に押し出された。
そこは、ビルの深い谷間。
底のほうには光はあたらず、決して乾くことのない泥が溜まっていた。
フラフラと歩いていく遥は、散らばる業者ゴミに足を捕らわれ、勢い良く正面から水溜まりに倒れこむ。
遥は起き上がろうとするが、手は動かし方すら忘れたように力が入らず、かろうじて顔だけが持ち上げることができた。
遥の顔面は泥まみれになり、気道には泥水が浸入してきた。
苦い咳がでる。
ぼやけた視界の向こうに谷間の出口が眩しく輝く。
そこを、留まることの知らない人々が通り過ぎていく。
遥は通りに向かって手を伸ばした。
震える指先は救いを求めている。
声をあげようとするが、空気だけが吐き出されるだけ……。
遥の意識はゆっくりと溶け始めた。
そのときだった。
ゆっくりと遥に近づく人影がひとつ……
白を破く異質なシルエット。
遥の目がおかしいのか。それは誰かも判別できないような、ただの人という塊にしか見えなかった。
それでも遥は力を振り絞り、すがりつくよう、その足に手を伸ばした。
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