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白い革靴に遥の指痕がつく。
声のかわりに涙を零し、必死に救いを懇願し見上げた。
それは静かに嘲笑った。
遥は全てを悟り、急に自分の存在が滑稽に思えた。それは声のない笑いとなってもれた。
それは遙をしばらく眺め、足を持ち上げた。
遥の瞳に、迫る靴底が映る。
次の瞬間、遥の視界はおそろしいほどの暗闇に染まっていた。
容赦なく頭を踏みつけられ、顔面が泥に埋まる。
周囲全ての音が途切れ、。泥土が口内に進入してくる。 息が苦しくなり暴れるが、抵抗にすらならない……
遥の意識は殆ど失われ、微かに白い存在が浮かび上がった。
『……め………ん…さ…』
世界が思い出したように、ゆっくりと音が蘇った。
路地には動かなくなった遥の体が横たわるだけで、他には何もない。
そして、路地の向こうに見える通りは、変わること無く人が流れ続けていた。
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