目撃者ゼロ

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「何が言いたい?」 「つまり、どんなに丁寧に優しく聞いたとしても無駄ということです。向こうにその意思が無いんですからね。少しでも自分の身を安全なとこに置いて守りたいから、彼ら観察者は無かったことにしたんですよ」  川瀬は面倒そうに説明し、西村は怒りで顔を赤くした。 「ふざけるな、殺人事件なんだぞ。人が死んでいるんだ。そんな自分勝手な言い分が……!」 「通りますよ。彼らはただの観察者。事件の解決より、目の前の生活が一番大事。動物園の動物を見るように、目の前の事件も眺め消えていくだけなんです」  西村は思わず川瀬の胸倉を掴んだ。 「それが刑事の言うことか。そんな考えを持っているから、証拠の一つも収集できないんだ!」 「西村さん、目撃者の事ですが、大変動揺している方が多く見られましたので本日のところは帰っていただきまして、後日改めて証言をとる予定になっています」  冷静な岩城の言葉に、西村は仕方なく川瀬から手を離し服を整える。 「分かった。そのまま乗客の目撃情報は引き続きまかせよう」 「はい。では、このまま周辺の聞き込みに向かいます。西村さんはどうされますか?」「……そうだな。駅のほうに行ってみるか」 「分かりました。失礼します。川瀬、行くぞ」  岩城はこっそり携帯電話のメールを確認していた川瀬を小突き、なかば強制的に連れて行った。  西村は呆れたように、タバコをくわえる。 「思っていてもそういう事は口にするなって言っただろ」
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