68人が本棚に入れています
本棚に追加
「でも、あんな風にいきなり怒鳴られるとムカつきません?」
川瀬は、ちらりと岩城を見た。
「聞き流すんだよ。あれはあの人の性分なんだから。俺達が諦め、耐えるしかないんだ」
「頭では分かっているんですけどね……」
二人は小さく溜息をつき、顔を見合わせ、苦笑した。
その二人のやりとりが聴こえたかのように、西村は渋面で彼らの姿を眺めていた。
煙草をいつものように踏み消し、思い出したように携帯灰皿を取り出す。
歳を感じさせるような、疲れた表情を浮かべ、西村は駅に向かって歩き出した。
駅は乗換えを急ぐ乗客と野次馬が入り乱れていた。
警官達は乗客に睨まれる中、証拠品を探し必死に這いずり回りどこか哀れな光景にさえ見える。
西村はその中から、ゴミ箱を調べている部下の大塚を見つけ歩み寄った。
「おい大塚、何か見つかったか?」
「いいえ。物証も証言もさっぱりです」
「また、目撃者がいないっていうのか!」
「またって、乗客からも目撃情報がとれなかったんですか?」
「あぁ。しかもあいつが、居たとしても証言する者はいないっていいやがる」
「はぁ、川瀬らしいですね。駅員の話によりますと容疑者と思われる者が、この駅で降りたのは間違いありません。念のため凶器が捨てられていないか近隣を捜索しておりますが、見つかる可能性は低いと思われます。後、駅構内の監視カメラの映像を証拠品として手配してあります」
「そうか。凶器の捜索は鑑識班にまかせて、先にテープを確認するぞ。署に戻る。車をまわしてくれ」
最初のコメントを投稿しよう!