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「・・・から・・・です。あ、気がついたみたいですよ」
柔らかい女性の声が、耳朶をくすぐる。
虚空に伸ばしたはずの手に、優しい何かが触れた。
「大丈夫ですか?お加減は?」
それが人の手だと気がつくのに、時間はかからなかった。
ぼんやりとした瞳に、焦点が戻ってくる。
最初に認識できたのは、声に劣らず美しい女性の顔だった。
すき通るような白い肌を縁取る、肩までの黒髪。
森の色を映し取ったような、深い緑の瞳。
女性らしく丸みを帯びた頬と、ふっくらと形の良い唇は、薄紅をさしたような桜色に染まっている。
華奢な体に纏う緑のローブは、彼女が魔法を使う者であることを物語っていた。
「ここ・・・は?あなたは・・・」
寝起きのせいか声がかすれる。
僕の言葉に、彼女は微笑みながら答えた。
「私はセアラと申します。あちらにいらっしゃる方は、アスタユルさんです」
言われて、もう一人同席者がいることに気がつく。
体を起こそうとすると、あちこちに鈍い痛みが走った。
修行着として、長年愛用している菜の花色のローブも、あちこち汚れて鉤裂きまでできている。
気絶してる間に、一体どういう扱いでここに運ばれてきたのだか。
「・・・っつ!」
「あ、無理しないで」
遠慮がちに、細い腕が支えてくれる。
「もう血は止まっていますが・・だいぶ強く殴られたようですから」
「・・・・・」
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