70人が本棚に入れています
本棚に追加
「場所は、おそらくはギランの郊外だろう。さっき、窓から確認したら、処刑場が西の方角に見えた 。タノール境界の要塞内にある、塔の一室を牢として使っている・・・そんな所だろう」
それまで黙っていたもう一人が、初めて口を開いた。
確か、アスタユルとか言っただろうか。
僕の視線に気がついたのか、彼は一瞬だけこちらを見たが、興味なさそうにすぐに視線をそらした。
一瞬、エルフかと思った。
短く切り揃えた髪は、それは見事な銀髪だったから。
窓から差し込む陽の光を受けて、虹色の光沢を見せるそれは、フェアリーの谷で見た、天然のクリスタルを思わせる。
怜悧な眼差しを湛える瞳は、ナルセルの湖面と同じアイスブルー。
すっきりとした顔立ちに、細い眼鏡をかけているのが、ことさら彼を知的に見せていた。
白いローブを着ている所を見ると、やはり彼も同業者なのだろう。
「まず、落ち着いて下さい。そうだわ、まだあなたのお名前を伺っていませんよね」
場を取り成すように、セアラが間に割って入る。
そういえば、そうだ。
「失礼しました、僕は・・・フロイといいます」
セアラは微笑みで、アスタユルは一瞥で応えてくれた。
僕は何となく所在がなくなって、少しクセのある赤髪を掻きむしってみたりする。
最初のコメントを投稿しよう!